生体模倣マイクロロボット
なぜこの研究をやるか
本研究の目的は外部環境に応じて自律的に推進制御可能な非拘束型マイクロロボットの構築である.近年,生体情報センシングや生体内治療,ターゲットドラッグデリバリなどを目指し,マイクロ・ナノスケールの非拘束型ロボットの研究が盛んに行われている.しかしながら,従来のマイクロマシンの課題として,推進制御に大掛かりな外部装置が必要なことや,金属などの生体親和性の低い材料で構築されていることが挙げられる.
そこで,生体親和性の高い刺激応答性ハイドロゲルを加工することで外部環境に応じて自律的に変形するマイクロロボットの構築を目指した.刺激応答性ハイドロゲルとは水分を多く含む高分子ネットワークでできており,温度やpH,化学物質などの外部環境に応じて膨潤収縮する特性を有する.この特徴をマイクロマシンに応用することで,外部環境に応じた自律的な推進制御を実現することが可能であると考えた.本研究では,自律型マイクロロボットの実現に必要な機能性ハイドロゲルの加工方法および刺激応答性ゲルによるマイクロロボットの自律的な変形機構を実現した
・鞭毛を模倣した自律型ハイドロゲルマイクロロボット
螺旋状ゲル作ったよ
磁性ナノ粒子を内包した螺旋状ゲルを構築し,2軸のヘルムホルツコイルによって外部から回転磁場を印加することで回転推進を達成した(図3上)[11]. 螺旋状ゲルの推進速度は螺旋のピッチ角に大きく依存することを理論と実験から実証し,螺旋状マイクロロボットの外部温度に応じた変形による推進速度制御を達成した(図3中,下) [12].この結果より,刺激応答性ゲルの統合がマイクロスケールの自律的な制御システムに有効だと実証できた.
マイクロロボット応用に向けて磁性ナノ粒子を内包した螺旋状ゲルを構築し,2軸のヘルムホルツコイルによって外部から回転磁場を印加することで水中での回転推進を達成した.螺旋状ゲルの推進速度は螺旋のピッチ角に大きく依存することを理論と実験から実証した.刺激応答性ゲルによるアクチュエーション機能を統合することで,螺旋状マイクロロボットの外部温度に応じた変形による自律的な推進速度制御を達成した(図1c, 論文[5], Front coverに採用,Advanced Science Newsにも取り上げられる).本研究成果により知能材料がソフトロボットのセンサ・プロセッサ・アクチュエータとして応用可能であり,生命のようなしなやかな知能を実現できることを実証した(本研究は,日本機械学会や産経新聞から表彰されるなど学術から産業界まで広く評価された).
・環境探査に向けたマランゴニ推進マイクロロボット
ハイドロゲルロボットの高効率な推進を実現するために,カタビロアメンボのように水面の張力差を巧みに利用したマランゴニ推進で遊泳するマイクロロボットを開発した.さらに,構造色で発色する比色するゲルセンサを搭載することで,水上の環境情報を色の変化で検知可能な自律型システムを実現した
・ペーパーマイクロ流体デバイスを搭載したソフトロボット
シリコーンゴムのDIWで構築可能なソフトアクチュエータの設計・開発に取り組んだ.ろ紙がソフトアクチュエータのひずみ制限層として利用できること,シリコーンゴムと結合することを発見したことで,μPADを搭載したソフトアクチュエータを実現した.印刷したμPAD内に比色pHセンサを保持することで,ソフトアクチュエータが検知対象物質表面に沿って変形し,表面pH変化を測定可能であることを実証した
バイオマテリアル,ソフトマテリアル
この研究の意義
生体の持つ高度な機能をロボティクスに応用するために,DNAやモータタンパク質といった生体材料とハイドロゲルを統合したセンサ・アクチュエータの開発に取り組んだ.
・刺激応答性ゲルを用いた螺旋状ソフトアクチュエータ
ソフトアクチュエータ応用に向けて刺激応答性ゲルを螺旋状ゲルの螺旋軸に対して垂直にパターンすることで,軸方向への大きな変形に成功した(図1b, 論文[6]).さらに,刺激応答性ゲルを外周部にパターンすることで,刺激応答性ゲル自体は収縮するのに対して,ゲルアクチュエータ全体では伸長するという駆動方法に世界で初めて成功した.本研究成果によりソフトアクチュエータの抱える変形量と変形方向の制御という課題を同時に解決することができた
・生体由来材料を用いた人工筋肉
生体筋肉を構成するモータタンパク質であるアクトミオシンを用いた人工筋肉の開発に取り組んだ.分子スケールのアクトミオシンの機能をマクロスケールまで拡張するために,生体筋肉においてアクトミオシンがコラーゲンゲルに包まれた階層構造になっていることに着目した.コラーゲンゲル内部でアクトミオシンを再構成することで,コラーゲンネットワークとアクトミオシン絡まりあうことで,マクロスケールの人工筋肉を実現した.ATPによるアクトミオシンの収縮は,コラーゲンネットワークに伝達されアクチュエータ全体が収縮する.さらに,コラーゲンゲルによって外部の構図物との結合が可能となり,アクトミオシンの収縮を構造物の変形に伝達することができる
生体筋肉を構成するモータタンパク質であるアクトミオシンを用いた人工筋肉の開発に取り組んだ.分子スケールのアクトミオシンの機能をマクロスケールまで拡張するために,生体筋肉においてアクトミオシンがコラーゲンゲルに包まれた階層構造になっていることに着目した.コラーゲンゲル内部でアクトミオシンを再構成することで,コラーゲンネットワークとアクトミオシン絡まりあうことで,マクロスケールの人工筋肉を実現した.ATPによるアクトミオシンの収縮は,コラーゲンネットワークに伝達されアクチュエータ全体が収縮する.さらに,コラーゲンゲルによって外部の構図物との結合が可能となり,アクトミオシンの収縮を構造物の変形に伝達することができる
・DNAゲルセンサ
DNAを使って高感度センサ
銀イオンに特異的に結合する塩基配列を持つDNAアプタマーをハイドロゲルに架橋することで,銀イオンを検知して収縮するゲルセンサを開発し,環境サンプル中の微量な銀イオン (10−5–10 mM) に成功した.また,マイクロ流体加熱デバイスを設計し,統合することで銀イオンの繰り返し検知を実証した.
・DNAゲルアクチュエータ
DNAアプタマーの分子認識による構造変化をマクロスケールまで増幅することで,センサ一体型アクチュエータの開発にも着手している.銀イオンに応答する塩基配列を持つ1本鎖DNAをローリングサークル増幅 (RCA) し,増幅された長鎖DNAが絡み合ったマクロスケールのDNAゲルを構築した.マイクロ流体デバイス内での構築にも成功しており,DNAの配向性制御によるアクチュエーション能力の向上も期待される.
ソフトマテリアルの加工技術
・竹槍状先端を用いた螺旋状ゲル
生体のようにソフト・ウェットな材料であるハイドロゲルを用いて微生物の鞭毛を模倣した螺旋状ハイドロゲルマイクロロボットの実現に取り組んだ.先行研究で報告されている螺旋状ゲルの構築手法は使用できる材料が制限されていた.竹槍状先端を持つ微細管を用いた非対称ゲル化による螺旋状ゲルの構築手法を偶発的に発見し,その原理を解き明かすことで,新たなマイクロ加工技術の確立した (図1a, 論文[7], [8]).この手法は応用性が高く,マイクロ流体デバイスによって二重同軸層流を竹槍状先端内に形成することで螺旋状ゲル内部に機能性材料を封入可能であり,細胞培養に成功している.
・3Dワックスプリントによるペーパーマイクロ流体デバイス
μPADは紙の毛細管力を利用したマイクロ流体デバイスであり,ワックスなどの疎水性材料を印刷することで作製され,簡便な生化学分析デバイスへの応用が期待されている.これまでμPADの作製に使用されてきたワックスプリンタの製造中止に伴い代替プロセスの開発が喫緊の課題となっていた.そこで,粘性材料を3次元的に直接印刷する技術であるDirect Ink Writing (DIW)による1ステップでμPAD を作製可能な新規手法を開発した (図3a, Sens. and Act. B chem., Submitted).S字型やT字型のような流路の作製に成功し,マイクロ流体デバイスとして機能することを実証した.